Column
志・形・属
「1代目が創り、2代目が守る。3代目が創り、4代目は守る。100年続く経営とはその繰り返しなんだ」。
こう話すのは、香川県の老舗日本茶専門店を継いだ3代目の若手社長。丁寧な手作業でお茶をつくる女性たちの姿を伝え、地域性や原材料への理解につなげたいと考えます。そして、茶葉の昔ながらのパッケージを、「お茶摘みのおばちゃん」の可愛いイラストと活動を伝える写真のものに一新し、生産者にもお客さまにも喜ばれる人気のお茶へと生まれ変わらせました。
このエピソードは、当社グループのコーポレートサイトで連載しているインタビュー企画、「ブランドたまご」でご紹介したものです。博報堂の若手社員たちが、新しいブランドの担い手の方たちを訪ね、ブランドづくりのヒントとなるような発見や気づきを探り、発信しています。ここで言う新しいブランドとは、数年以内に生まれ、日本各地に古くからある素材や技術、商品や産業を活かしながら、新しい発想で革新を起こしているものです。
冒頭の方のほかにも、醸造業から視点を昇華させ、保存食をつくろうと「乾燥」に着目し、ハート型の乾燥レモンとティーバッグのセットが人気を博した、山口県にある醸造業の8代目社長。擦って火をつけるというマッチの行為そのものに着目し、擦って火をつけるお香の開発に結びつけた、神戸のマッチ会社の若き社長など。伝統を守りながら革新を起こした方たちにご登場いただいています。
それぞれの成功では、社会にとって有意義な、魅力ある個性=らしさのあるブランドをつくる上で大切な要素がおさえられています。その大切な要素とは「志・形・属」の3つです。ブランドの理念やビジョン、将来像を表す「志(こころざし)」。ブランドらしさを体現する象徴的な商品やサービスを表す「形(かたち)」。さらにブランドに共感し、応援するサポーターやコミュニティにも着目した「属(ぞく)」です。
世界で生まれる最先端のイノベーションから学ぶことは、もちろん沢山あります。一方で「ブランドたまご」でご紹介した、伝統を守りながら革新を起こした方たちは、「志・形・属」を具現化して新たなブランドを生み出しました。自分たちが受け継いできた事業の志を振り返り、未来へ思いを馳せる。伝統的な技術や素材の魅力を見つめなおす。地域や周囲の方たちと築いてきた絆を大切にする。そして、新たな発想を形にする。そこから、日本流のイノベーションは生まれてくるのかもしれません。
理事 戸田裕一
(博報堂DYホールディングス)