Column
暑い夏にTVの中で
みなさんがこの小文を目にされている頃にはもうおさまっているだろうが、書いている今現在はこの上なく暑い。
もう聞き飽きたフレーズだが、今年の夏は本当に暑い。夏は暑いものだが、正直これはたまらない。
その暑さの中、アクティブに動き回るのもままならず、TVの前に座ることが多かった。
そんなTVから二つほどお話しを。
熱戦が繰り広げられた今年の第100回夏の甲子園大会。決勝まで、ほぼ一人で投げ抜いた金足農業吉田投手の力投は素晴らしかった。みなさんも記憶に新しいだろう。
私自身もTVで観戦したが、本当に見事だった。優勝した大阪桐蔭が少し気の毒な程、世間は金足農業、また、吉田投手の話題で盛り上がった。
そんな中、吉田投手があれだけの球数を一人で投げ抜いた事の是非がマスコミを中心にかまびすしいが今更触れるのも野暮な事なのでここではしない。
私が気になったのは吉田投手のマウスピースだ。非常に印象的だった。
最初はなんて白い歯なんだろうと思っていたが、しばらくしてマウスピースを着用している事に気付いた。
今まで、マウスピースと言えばラグビーやアメリカンフットボールと言った、一種の格闘技要素のあるスポーツの必需品だと思っていたがそれだけではないようだ。
単に外からの衝撃に対応しているだけではなく、ぐっと踏ん張ってバッティングをしたり、投げ込んだりする時の自らが発する衝撃にも有益なようだ。
なるほどな、と思っていた時に、アジア大会で大活躍した水泳の池江璃花子選手が歯の矯正をしていると言うニュースを目にした。
彼女だけではなく、同じ水泳の瀬戸大也選手も歯の矯正をしているらしい。歯の噛み合わせは体幹のバランスにも大きく影響すると言う事。この話も知らなかった。
片やマウスピース、片や歯の矯正。
今まではスポーツでの成功の影に努力あり、といった話が多かったが、今では努力するのは当たり前、それに加えて身体発達、保全にも細かく気を配るのが当然らしい。
トップアスリートだけがやっているのではあるまい。おそらく、アマチュアの若年層からはじめているのだろう。誠実に努力しつつ、理性的に成長を考える。そんな事が当たり前に出来るから、彼らは人々を感動させたり、世界をあっと言わせたり出来るのか。
暑かった今年の夏に、たまたま見ていたTVの中で、今まで私の知らなかったゾーンに若者たちが軽々と飛び込んで行く。
素晴らしい光景であるが普通の人間である私は彼らから何かを導き出すと言うよりは、彼らに喝采を送る程度に留める事にしよう。
懸賞論文委員会担当理事
丹羽信一
(日本経済広告社)