Advertising Week Asia 2024
DE&I時代のマーケティングに必要な
「アンステレオタイプ」とは?
UN Women × JAAA 特別セッション

 

2024917()20()に東京アメリカンクラブで開催された「Advertising Week Asia 2024」。
当協会DE&I委員会も最終日にセッションを行いました。

本稿では、株式会社グレイワールドワイド(WPPグループ)の松岡弘樹氏と株式会社オプトの菅原智華氏、そして、UN Women(国連女性機関)の広報・アドボカシーリードとして、メディア業界・広告業界と共にステレオタイプ撤廃に取り組む市川桂子氏の3名が登壇したUN Women × JAAA 特別セッションの様子をお伝えします。

市川 桂子 氏(Keiko Ichikawa

UN Women (国連女性機関)日本事務所
広報・アドボカシーリード

大手テレビ局の報道局外信部に勤務後、FAO(国連食糧農業機関)やIFAD(国際農業開発基金)、世界銀行東京防災ハブといった複数の国際機関にてメディア対応や広報業務に従事。2023年2月より現職。UN Womenでは、アンステレオタイプアライアンス日本支部のリード役を務め、企業と協働してDEI視点を反映した先進的な広告制作を推進する。

菅原 智華 氏(Chika Sugawara

株式会社オプト
DE&I推進室 室長

オプトに入社し、マーケティング、営業企画、事業開発を担当した後に、同社を退社。グローバル展開する国内EC企業にて、マーケティング及びデータを活用した事業開発に従事。出産を経て、デジタルホールディングス(オプトの親会社)に再入社し、事業開発・投資を経験後、2021年よりグループ戦略と兼務でDE&I推進を担当。現在は社内に留まらず、社外と共創・連携しながらDE&I推進に取り組んでいる。

松岡 弘樹 氏(Hiroki Matsuoka

株式会社グレイワールドワイド(WPPグループ)
HR Director

新卒で国内大手広告会社ADKに入社、マーケティング部門、営業部門にて、大手通信会社、飲料・食品会社、自動車会社、SNS会社などを担当。2018年より人事に異動し、グループリーダーとして、採用、人材開発・教育研修、制度企画、DE&I推進等に従事。202310月よりWPPグループのGreyへ。現在は人事総務部門を統括しながら、WPP Japanの人事関連プロジェクトの一部もリード。前職と現職にて、JAAA DE&I委員。

=UN Women(国連女性機関)とは=
ジェンダーの平等、女性のエンパワーメントに取り組んでいる国連機関。
世界全域で女性と女児のニーズに応じた変化をさらに加速させるために設立された。

 

=Unstereotype Allianceとは=
2017年、カンヌ国際クリエイティビティ・フェスティバルにて発足。UN Womenが事務局を務めるグローバルな取り組み。
有害なステレオタイプがジェンダー平等を進める上で足枷となっているとして、ステレオタイプに、打ち消す意味合いの「un」を付けた造語を作り、メディアや広告媒体から有害なステレオタイプをなくしていくことを目的に活動している。
ステレオタイプはそれぞれの国の社会・経済的な考えや慣習に根付いているとして、その撤廃には、それぞれの国の取り組みが必要との観点から、日本を含め12の国に支部を置いている。日本支部は2020年に発足。

un + stereotype

松岡:今日は、皆さんに一本ビデオをお見せしたいと思います。


市川:Unstereotype Allianceで、2023年からグローバルで展開しているキャンペーンです。

#SAY NOTHING, CHANGE NOTHING ― ジェンダーに関する動画のキャプチャ ―

 

(人事採用会議にて)

上司:「新しく誰を採用するかについて話し合いましょう。
     アダムとジェニファー、どちらが良いと思いますか?」

部下A:「断然、ジェニファーです。素晴らしい経験を持っているので。」

上司:「でも彼女は最近出産したのよね。それについてはどう考えますか?」

部下B:「どういう意味ですか?」

上司:「今回は長期的な雇用を考えているのよ。
       この仕事に必要な時間と労力を考えた時、子供ってお荷物になると思わない?」

 

ナレーション:ステレオタイプ(固定観念)
            こうした問題に立ち向かわない時、私たちが“問題”になります
            何も言わなければ、何も変わらない

 

松岡:いかがでしょう。ちょっとざわざわするというか、胸に残る感じがありますけど、このキャンペーンについて少しご説明いただけますか。


市川:去年から始めたグローバルのキャンペーンで、普段生活する上で、このような場面っていろんなところで遭遇すると思うんですよね。その時に何も言わなかったら、それがこのビデオでもありますように、やっぱりみんなちょっとざわざわして(今の発言でちょっとおかしくないですか?というように)、でも、言えないその場の雰囲気もあると思うんです。 何も言わなかったことで、その状況・発言を「黙認=容認」というような、そういったことが多々あるのではないかということで、このキャンペーンは、関心喚起もありますし、さらには黙認してしまう人たち(傍観者、バイスタンダー)が、どうにかそこから一歩立ち上がって、何か「いや、ちょっと今の発言でやっぱり少し問題があるんじゃないですか?」と、心理的安全性を保った上で何か言えるような人というのが…


松岡:3割ぐらいしかいないって話ですよね。


市川:そうですね。グローバルのリサーチで、こういった場面に遭遇するっていう答えが7割あったんですけれども、そのときに3割の人たちが、何かしらの声を上げて介入したとしています。それでも、残りの人たちはどう入っていったらいいか分からないんですよね。このキャンペーンは、こういった関心喚起、問題を取り上げるところから、さらに一歩踏み出していただくためのガイダンスとして、1 on 1でどう介入できるのか、声を上げられるのか、そういったリソース、ガイダンスも併せて提供しているキャンペーンとなっています。


松岡:他にも、人種差別や障害者差別など、いくつかビデオを作っているんですよね。今日はジェンダーにフォーカスしたかったので、この事例をご紹介しています。Chikaさん、どうですか?ご覧になって。


菅原:そうですね。 動画にあるような、直接的に子供がどうというようなことを、日本では最近はなかなか聞かなくなったんじゃないかなと思う一方で、優しさだと本当に信じ込んで(だからこそ固定観念を押し付けてしまって)いるケースは多いんじゃないかなと感じます。また、当社で社員に調査を行ったときに、アグレッシブに働きたいと考えている率が最も高かったのは、子育て中の女性社員という結果が出たこともありまして、この動画を見て、それを思い起こしました。


松岡:でも、この平場で口に出して、「これが問題だよね」っていう議論ができないっていうのが、今、多くの現場で起きていることでもありますよね。


市川:そこが課題でもありますよね。 (立場に関係なく)平たく話せるような関係や機会があるっていうことが重要ですよね。

マーケティングにおけるステレオタイプ

松岡:先ほどKeikoさんのお話もありましたけれども、カンヌに2017年から出られていて、今年もカンヌで「エイジズム」「AI時代にDE&Iはちゃんとプロテクトされるんだろうか」「男性が取り残されていないか」といったテーマで、ステージをやっていたと伺っています。それと、ビジネスケースの紹介があったんですよね。


市川:Unstereotype Allianceはカンヌで発足したというところがありますので、毎年必ずステージを持たせていただいています。今回、そのメインステージを取らせていただいただき、そこで発表させていただいたのが「Inclusion=Income」です。

 


市川:インクルージョンがビジネスプロフィットもたらし、そしてビジネス成長につながるものなんだということを、リサーチをもって発表することができました。4年に亘って58カ国392のブランドを調査して、ブランドの広告、ビジネスパフォーマンスの結果を導き出しました。DE&Iもそうですし、社会的な課題って、やった方がもちろんいいですし、やらなければならない重要なことだからと議論されたり取り組みが行われたりすることが多かったと思うのですが、そのときに「ビジネスにつながるものなのかな?」という疑問が残っていたと思うんです。また、インクルーシブな広告を作ったり活用したりした結果についての、しっかりとしたデータがなかったわけなんですよね。今回、データをもって「インクルーシブな広告は売上に大きく影響する」ということがわかったので、そういう意味では、私たちがやってきたことは胸を張れるというか、これからさらに大きくアドボケート(提唱)していけるのではないかなと思っています。先進的ではない広告と比較した場合、短期的な売上が、3.46%増加しています。 長期な売上を見ても、16.26%の増加があり、 ブランドのエクイティも向上しているというデータになっています。「『先進的な広告』『インクルーシブな広告』の制作や活用って重要だよね」というだけでなく、ビジネス戦略に据え置いて、マストでやっていかなければならないことなんじゃないか、というのが現れた調査結果だと思います。


松岡:この話って、先進的な広告を作っている企業はレベニューを伸ばしていけるとか、そういうポジティブな影響っていうのが、一発の広告で数字がポンと上がるということではなくて、そういうことをやっている企業が数字(目標値)を実現しているっていうことを示しているんだと思います。 逆にできてない場合というのが、皆さんもよく炎上事例というものとして目にされることも多いと思うんですよね。その少し極端なステレオタイプっぽい描き方をしてしまっていると指摘を受けて、それがSNS等で炎上してしまうっていうことが、いくつも起きていると思います。この話っていうのも、今は(広告の)切り取りをして、その瞬間で共有できてしまう時代になっているというところが、背景としてあると思うんですよね。誰も炎上させようと心から思って広告を作っているわけではないんだけれども、 15秒のテレビコマーシャルや新聞の広告を作る中で、広告全体としてデザインして世にローンチをしているんだけれども、この部分、この一行、この秒を切り取ってシェアされてしまって、問題だと言われてしまうような実態もあるかなと思います。

広告を発信する側として

松岡:先進的な広告を作っていきつつポジティブサイドで伸ばしていくってことを、裏を返すと、それができていなければ、まあそれだけ切り取りとかも含めてジネスにもネガティブなインパクトを生み出してしまう可能性もあるっていうことかなって思うんですけども、いかがですか?


菅原:今おっしゃってくださった「切り取り」に関して言うと、やっぱり広告主が今まで想定していたようなコンテキストだったりシーンで「発信がしきれない」「コントロールできない」ということをある種の前提条件に置いたとき、広告会社や広告主として、どうコミュニケーション設計していくべきかを考えていった方が良いんだろうと思います。 やっぱりメッセージ性が強いと、その分、炎上のリスクも高まると思うんですけど、逆にメッセージ性が弱くなってしまうと、どこの誰にも届かないっていうことになってしまいますので、そのジレンマの中をどうやっていくかが、これからのマーケティングコミュニケーションで重要になってくると考えていますね。


松岡:一方で、我々一人ひとりが胸に手を当てて考えてみても、どこかしら思い込みだとかアンコンシャスバイアス(ステレオタイプ)というものを、それぞれ違う形で持っているんじゃないかなって思うんですよね。広告の作り手側にしても、広告主側の企業にしても、チェックするメディア企業にしても、完璧にバイアスというのを、問題ない状態にして世の中に出していくってことは、実は結構難しいですよね。


市川:アンコンシャスバイアスって、みんな持っていますよね?それをゼロにしようっていう取り組みではなく、「みんなバイアス(しかもアンコンシャス)があるんだ」というところで、多様なチームメンバーで議論すれば、気づきがあるっていうことですよね。故に、多様性が重要という。


松岡:そうでしょうね。その辺りでいうと、広告制作のプロセスだったりとか、そういうところでどういう改善ができるのかみたいな話かと思うんですけど、Chikaさん、何かお話いただけることはありますか?


菅原:そうですね。広告を作るプロセスの中にダイバーシティを確保していくっていうことだと思うんですね。まずは、チームワークの段階でダイバーシティを確保して、その集団の中で盲点を極力減らしていくこと、また、専門家や当事者の方たちの声を反映するプロセスを標準装備していくことが、これからは大事かなと思っています。もうひとつ付け加えるとするならば、「広告ターゲティングから外れている人たちがそれを見たらどう思うか」というところも、これからは留意する視点かなと思います。


松岡:たしかに、マーケティングコミュニケーションをやろうとした時に、必ずターゲッティングをしていて、そこに対して「このメッセージを届けたい」としているはずなのに、今はタッチポイントというものがすごく広がっていて、どこでも(広告が)先ほどの切り取りみたいな形で登場するようになってしまっているので、マーケティング上の狙っているコミュニケーションと全然違うところで話題になるとか炎上しちゃうとか、ターゲットと想定していなかった相手に全然違う受け止め方で反応されてしまうとか、そういうことがあるということですよね。そうなってしまうかもしれないことをいつも想定して、考えていくってことが大事ですね。


菅原:それを想定するうえで、ダイバーシティを確保しつつ、先ほどKeikoさんが言ってくださったように、インクルージョンが大事だと思っています。ダイバーシティをいくら確保しても、インクルージョンがないとダイバーシティの意味がなくなっちゃうと思うんですね。先ほどの動画にあったような、みんなが思っていても(思いを)言えなければ、それはダイバーシティが機能しないことと一緒なので、リスクマネジメントという観点でも、(インクルージョンがないとダイバーシティは)あんまり効果が発揮できないのかなっていうのは思いますよね。


市川:それはインクルージョンがあると、先ほどのような場面でも声を上げやすいとか議論しやすい雰囲気があるとか、みんながその議論の場で声を上げられる包摂性みたいなところですよね。


菅原:そうですね。


松岡:このデータも「Inclusion=Income」となっていて、やっぱりDE&Iをアクションまでもっていくには、インクルーシブであることがすごく重要ということが、ここから伺えるかなと思います。 炎上の話も含めて、少しだけ付け加えておくと、先進的な広告制作をするその裏側には、その企業の考え方や哲学があって、「広告を見た方はその先にその企業を見てくれている」ということなのかなって思うんですよね。広告主さん側も、「自分たちが作った広告だけじゃなくて、全部が一貫して顧客と繋がっているんだ」みたいなことを考えていただくと良いのかなって思います。逆に言うと、炎上の時でも(考え方は同じ)ということなのかなと思うんですよね。


市川: その商品・サービスだけでなく、(売り手として)メッセージを出している企業として(生活者は)見ているわけですよね。


松岡:そうですね。仮に切り取られて炎上してしまったとしても、その先には自分たちっていう企業があるわけで、切り取られてしまったが故にごめんなさいとお詫びしちゃったら、元々思っていた自分たちまで曲げちゃうことになるということもあり得るのかなと思って。Chikaさんが 言ってくださったようないろんなリスクを想定したり準備をしたりしながらも、本当に燃えちゃったみたいなことがあった時にも、ちゃんと自分たちのありのままの姿勢や哲学みたいなものを貫くってことは、大事なんじゃないかなと思いますね。


市川:一貫性。


松岡:そうですね。一貫性は大事だと思いますね。

業界慣習におけるステレオタイプ

松岡:「インクルーシブであるべきだよね」という話をしていますけれども、一方で、広告業界にはまだいろんな慣習があって、難しいところもあるよねという話をしていきたいと思います。 広告業界に限らず、日本企業でいうと、「終身雇用」「年功序列」の残り香がまだまだあって、やっぱり上位者の発言の方がパワーがあったり、だからこそ言えない雰囲気があったりすると思うんですけども、特に広告の現場ですと、すごく同質性の高いチームで、ハードワークして「いいもの作ろうぜ」とやってきた業界の長きに渡る慣習があると思うんですよね。どうですか?


菅原:はい、私はデジタルマーケに長くいるので、ハードワークみたいなのがインストールされてしまっている部分もあるんですけども、業界全体の「マッチョイズム」が強いかなと感じます。マッチョイムズというのは、野心的とかたくましいみたいな男性の強さを表す、是とするような価値観のことを指すんですけど、例えば、学生さんから「業界についてお話を聞かせてください」と(こちらに)来てくれた時にも、やっぱり「ハードワークなんですよね」「お酒はみんな強いんでしょうか」「ノリが良くて当たり前」みたいなステレオタイプを持たれているな、と感じたことがありますね。

松岡:私も業界と関わりのない友人と会うと、未だに「あ、出た。広告代理店出身!」と言われます。すぐ「代理店の人」とか言われますよね。


市川:私もメディア業界にいたので思うんですけど、長時間労働が美とされているところがまだまだあるように感じます。どれだけ長時間労働したかっていうのが美化というか、たくさん働いて、頑張っている指標になっているというか。みんな長く(職場に)いますもんね。


松岡:もちろん私も人事の立場なので、今ですと長時間労働の上限規制とかもすごく厳しくなってきているので、やはりそのルールの中でやりましょうということは、企業側としてはメッセージをずっと出し続けるわけなんですけれども、いい仕事をするために時間をかけてやってきたし、急に半分の時間にして、いい仕事ができる気があんまりしない、というのはちょっと残っているかなと思います。


菅原:元々広告業界の人、広告に携わる人たち自身は多様だし、一人ひとり違うはずなのに、 慣習に自分をアジャストして生き残れた方々が今、組織の上の方にいらっしゃると思うんですよね。なので、そういう同質性が強かった時代ももちろんあるんですけど、今後も、このままでいいのか、というところですよね。


松岡:Chikaさんの会社だと、それこそ平均年齢で業界全体と比べると、ちょっと低めだったりするとか、それによって同質化とちょっと違う動きがあったりとかってありますか?


菅原:はい。当社は平均年齢が3132歳で非常に若いんですね。実際にそういう方たちとお話をさせていただくと、組織の中で管理職以外の道を模索されていたりとか、男性社員も女性社員と同様に家庭や子供を持ったときに、どういう働き方を実現していきたいかという相談がすごく多いんですね。 こういった時代の変化を、年代が若い方が多い分、結構ダイレクトに感じているのが当社かなと思いますね。 そういう意味で、業界のマジョリティになってくる2030代の働き手の中で、組織としても個人としても、価値観・バランスが少し変わってきていると感じます。


松岡:以前は、日本の労働市場で言うと、企業に入るという「就社」みたいな概念が強かったと思うので、その企業に入ったら、いろんなアサインメントがあったり職種がいきなり変えられたりもあるけれども、その企業に貢献しているっていうことで認められてきた、という慣習もあると思うんですよね。 なので、ここで存在する「ステレオタイプ」というのは、「会社側に自分が合わせるべきだ」「合わせねばならない」みたいなことなのかなと。

松岡:今、Chikaさんのお話を伺っていると、それとは違って、先に自分の価値観の話をしてくる人が結構増えてきている、という話かなと思いました。それこそ、ダイバーシティというものが、今どこで発生しているのかでいうと、生活者一人ひとりの中に価値観の多様化というものがあり、マーケティングの世界においても、そういう顧客を相手にしなければいけないから、多様な価値観を(ポイントとして)押さえなければいけない。それは、完璧にはできないかもしれないけど、プロセスの中にダイバースな目を取り込んでいくとかいろんなことをやって、何とかしていこうと動いているということだと思います。顧客にしろ、我々働く側にしろ、多様化が進んでいる、ということなんでしょうね。


市川:過渡期ですよね。変わっていっている中で模索している時なので、いろんな変革も起きるし、それこそ10年、20年先に少し落ち着いていくのかどうかなのかなと。


松岡:そうですね。今日はジェンダーのお話っていうところではあったと思うんですけれども、Chikaさんの会社だと、男性がいろんなお悩みを感じることがあると伺っています。女性に対して「女性活躍」「女性の社会進出」というのが進んでいて、「自分たちって置いていかれているんじゃないの?」と思っている人は、男性の中にいますか?


菅原:そうですね。私がDE&Iで最初に取り組んだのが、実は男性育児休暇の必須取得だったんですね。価値観っていうのは経験を通さないとなかなか変わっていかないかなというところがありましたし、家庭でいうと男女が表裏一体だなと思ったので、女性活躍にフォーカスされている時代ではありつつも、その一側面である男性にもフォーカスを当てて、多様性や開放みたいなところをすごく大事に考えて、進めさせていただきました。


松岡:必須化というのは、結構インパクトありますよね。


菅原:はい。取締役にも取っていただきました。


市川:女性活躍と言われるけれども、活躍するために自分は子供が2人いる。働きたいけれども、その時間に夫が帰ってきてくれないと子供を見てくれる人がいない。だからこそ、「女性活躍」と同時に、例えばお風呂の時間には帰れるとか、子どもの迎えに行けるとか、男性が働いている環境もやっぱり変わっていかないと。両輪でないとうまくいかないですよね。なかなか。


松岡:おっしゃる通りですね。それに絡んで、せっかくですので「HeForShe」の取り組みについても簡単にご説明いただいてもよろしいですか。


市川:この「HeForShe」というのが、UN Women2014年から取り組んでいるもう1つのイニシアティブで、ハリーポッターで有名なエマ・ワトソンがこのキャンペーンを主導してくれているんですけれども、「男性がジェンダー平等に一緒に取り組んでいく」、 これまでジェンダー平等というと「女性の、女性による」というところもあったと思うんです。でも、やっぱり男性の参画・協力なしには(実現が)難しいんですよね。ですので、「He=彼ら=男性」が一緒に賛同してくれた上で取り組んでいこう、ということを推進しているイニシアティブになっています。


松岡:ジェンダーを中心としたDE&I推進を考えた時に、「男性は『枠外』ではなくて『当事者』なのである」というコンセプトはすごくいいなと思いました。その時にきちんと仕組みとして、それをやりやすくしていくっていうことも必要かなと思って、Chikaさんにおっしゃっていただいた男性育休の必須化みたいなことを、制度や会社側の環境として整えていくことが、一緒になって推進していく上で重要かなって思いますね。


市川:制度としてあるだけでなく、それが活用できる環境、職場の雰囲気、同僚、そういった空気感っていうのもすごく重要かなって思いますね。

DO NOTHING, CHANGE NOTHING

松岡:今日はアンステレオタイプをテーマとしてお話ししました。皆さんの中に一つひとつステレオタイプが何かしらあって、それを「un」していくことが非常に重要なのかなって思っています。せっかくここに来ていただいている方々がいますので、明日からできそうなアクションや心掛けについて、どんなことが挙げられるでしょうか?


菅原: 私は、定期的にステレオタイプ(無意識バイアス)を仲間達と反省する会を設けているんですけど、実際にやってみたときに反省することが出てこなかった経験があります。 それほど、自分でステレオタイプに気づくことは難しいので、「何か仮説を持ったら当事者・本人に聞く」「決め付けない」ということから始めることが大事かなと思います。


市川:私も、みんなで話し合いをする、ダイアローグをすることが一番なんじゃないかなと思います。それが気づきの機会にもなると思っています。


松岡:カルチャーを作っていくことが重要で、そのためにはダイアローグや対話をしていくことで、お互いの違いを発見していく、違和感に気づけるようになっていくということだと思うので、今日言っていただいたようなこともヒントにしながら、皆さんもぜひ、今日から明日から、何か取組みをしていただけると、未来がだんだん変わっていくんじゃないかと思いますので、一緒に頑張っていきましょう。

JAAA DE&I委員会では、業界内外のダイバーシティ、エクイティ、インクルージョンを推進すべく、様々な活動を行っております。
今後も皆さまに活動の様子をお届けしますので、発信したメッセージがDE&Iを自分ゴトとして捉えていただくきっかけになることを願っております。