広告×LGBTQ+の未来を考える 第3回
「LGBTQ+を描くメディアコンテンツの先進的な取り組み」レポート
電通ダイバーシティ・ラボの「LGBTQ+調査2020」によると、LGBTQ+層は8.9%(11人に1人)。そして当事者の約2割は、広告におけるLGBTQ+の描写を不快に思ったことがあるとの調査結果があります。
広告制作はじめ、いまや様々なアウトプットに関わる広告会社にとって、留意すべき現状だと感じます。広くメディアコンテンツに目を向けると、近年、LGBTQ+を描く作品が増えてきており、先進的な取り組みが進められています。
6月プライド月間にあわせ実施の勉強会第3回では、この取り組みに着目し、ゲストスピーカーお二人によるトークセッションとすることとしました。
スピーカーには、映画『エゴイスト』で日本初の“LGBTQ+インクルーシブ・ディレクター”として性的マイノリティーに関するセリフや所作、キャスティングなどを監修したミヤタ廉氏(以降、ミヤタ)と、トランスジェンダーであることをカミングアウトし、俳優・舞台プロデューサーとして多方面で活躍中の若林佑真氏(以降、若林)を迎え、「LGBTQ+を描くメディアコンテンツの先進的な取り組み」をテーマにお話しいただきました。
モデレーターは、DE&I委員会委員の細谷由美子さん(大広)です。
当日はJAAA会員社の様々な部署より多くのご参加をいただきました。
トークセッションに入る前に細谷さんよりスピーカーお2人の紹介とLGBTQ+を描いた国内作品の振り返りがありました。
日本では2016年ごろからLGBTQ+のキャラクターが映画やドラマへの登場が目立つようになってきました。
2015年の渋谷区と世田谷区のパートナーシップ制度が導入されたことも契機の一つと言えるかもしれません。
男性同士の恋愛模様を描いたドラマタイトルが新流行語大賞の一つに選ばれたり漫画やエッセイなどの原作をもとに次々と魅力的な作品がドラマ化されていきました。
最近ではアセクシャル・アロマンティックなどの多様な性のあり方にも光が当たる作品が出てきています。
近年の国内話題作品を思い起こした後、いよいよ次はゲストお二人によるトークセッションです。
セッションは5つの質問にお答えいただく形で進んでいきました。
Q1. 少しずつLGBTQ+を描く映画やドラマが増えています。近年の潮流に関して思われることはありますか?
若林:これまで男性・女性という二元論の異性愛が描かれてきている中で、そこに当てはまらない人がいるということを知ってもらう機会につながると思っていて、まずそうした潮流をありがたいなと感じています。一方で「マジョリティの人が理解するためのマイノリティ」、「マジョリティが想像するマイノリティ」という描かれ方をしていることもあり、当事者からすると共感できないこともあったりします。
ミヤタ:良い流れだなと感じるのは自分も同じで、笑いや感動ネタとされたり、あるいはタブーとして取り上げられなかったりという時代がある中で、そうではないLGBTQ+のキャラクターが増えていくと良いと思っています。あとは誤解を恐れずに言うと、マイノリティにも様々なタイプの人がいます。例えば、マイノリティは誰もが善人というわけではありません。マジョリティが思うマイノリティのステレオタイプに縛られないといいなと思います。
若林:ミヤタさんがマイノリティにも“様々なタイプがいる”というお話をされていましたが、その通りで、必ず善人とは限らないし、また、マイノリティでいることが悲しい、辛いとかばかりではないです。マイノリティの中にも多様性があるので、そうした色々な面が描かれる作品が増えていったらいいなと思っています。
Q2. LGBTQ+を描く作品ならではの難しさや課題はあると思いますか?
ご出演/監修された作品では、どのような取り組みがされていましたか?
若林:自分が感じた違和感を丁寧に伝えて、物語に落とし込んでいくという作業をすることが多いです。
最近感じているのは、トランスジェンダーの男性役はシスジェンダーの男性俳優が演じられていることが多いですが、トランスジェンダーの女性役もシスジェンダーの男性俳優が演じているのがほとんどです。トランスジェンダーの女性にお会いすると、生まれもった体は男性だということが分からない方がたくさんいらっしゃる中、ドラマや映画ではシスジェンダーの男性俳優が演じています。「トランス女性=男性で女装している人」という偏見を助長してしまうのではと危惧しています。
ミヤタ:制作段階でゲイという役を作る時、ステレオタイプになりやすいという傾向があります。ゲイというキャラクター一つを考えても様々なタイプが存在します。一つの作品を例に挙げると、そのキャラクターの生い立ちや生活を経て人格が形成されていくという当たり前の順序を踏んだ上でキャラクターを作ると、しゃべり方や振る舞いもステレオタイプにならずに、異性愛の恋愛ものと同様に一つのキャラクターとしての人物が出来上がります。この順序を役者と相談し、監督と作り上げていくということが私の監修のやり方だったと思っています。
また、制作する時の難しさと、発信する時の難しさがあると思っています。
制作する時に気を付ける、という体制は徐々に出来上がってきているなと思いますが、発信・宣伝する内容で誤解が生じてしまっていると感じています。
Q3.演者の方だけでなく制作スタッフのDEIも課題です。
LGBTQ+の人が働きやすい現場にするためにできることはありますか?
ミヤタ:DEIが公平で包括的に扱われている状態ということであれば、LGBTQ+が働きやすい現場というのは、すべての人が働きやすい職場ということですよね。
例えばゲイということで考えると、性的指向以外何か変わっていることはあるのかというと、それはなく、誰もが働きやすい要素を考えることになると思います。
その要素は、例えば、目に見えない障害を持っていたり、人間関係で問題を抱えていたりなどの、相手に対する想像力、そして自分が相手を差別してしまっているのではないかという前提に立つ、ということが挙げられるかと思います。
マジョリティにもマイノリティにも大きな才能を持つ人材が数多く存在します。
様々な才能の有無を自身で気付き、自在に使いこなせる人もいれば、自分でも気付いていなかった才能を周りに見出してもらい発揮できる人もいます。
環境が良ければ良いほど、そうした才能は大きく開花しますし、悪ければ悪いほど才能は息を潜めてしまいます。
「LGBTQ+の人にどう接するか」ではなく、「全ての人とどう接するか」を考え、適度な距離を保ち、認め合い、尊重しながら接していく事で会社や現場に必要なものが大きく育っていくのではないかと思います。
若林:想像力はとても大切です。アイデンティティや目に見えない部分を口に出せないということは、周りの人からみるとそのような人は「いない」と思われてしまっている可能性があり、それにより、差別的な発言が出てきてしまう、といった状況になってしまいます。
このような状態は無知の悪循環です。
まずは男女二元論や恋愛至上主義といった無意識に当たり前と思ってしまっていることに当てはまらない人はいないのか、といった想像力を働かせていただきたいです。
例えば、男女募集中という表現も、性別不問という表現に変えるだけで、LGBTQ+の人は応募しやすくなります。
自分の視野に入っていないものを考える、ということはとても難しいことだと思います。LGBTQ+でいうと、LGBT法連合会という団体が「LGBT困難リスト」を公開しています。参考にしていただけると良いと思います。
Q4.広告ってどう見えてますか?
若林:LGBTQ+で考えると、いないものとして扱われているなと感じています。
広告はその企業の価値観が目に見えてわかるものですよね。例えば、脱毛の広告で「モテる男の身だしなみ」という表現は「モテる」という言葉から、「他者から承認されることが大事だ」とこの企業は思っているのか、と捉えてしまいます。また、育毛の広告で「あきらめるな、男だろ」という表現から、男は強くなくてはいけない、という価値観を生み出していると感じてしまいます。
ミヤタ:CMでゲイのカップルが登場してきているなとは感じています。
広告とは違うジャンルかもしれませんが、メンズファッション誌を見るといまだに女性から良く見られるための特集や編集をしています。自分のセクシュアリティ、アンデンティティを出せてきている時代において、作り手はまだその位置にいるのかとがっかりします。
宣伝の世界に長くいることで、情報があふれているこの時代においても、外の情報が入りづらいのかなという印象があり、すごく視野が狭いと感じてしまいます。
LGBTQ+に限らず、プロフェッショナルの方々には世の中の情報を積極的にとった上で、メディアコンテンツの制作をしてほしいと思います。そうすることでさらに幅広い層からの支持がもらえるのでは、と思っています。
Q5.広告などのメディアコンテンツ制作者に伝えたいことはありますか?
若林:今の時代は、他者からの承認ではなく、セルフケア・セルフラブということを大切にされている価値観を持っている方が多いように感じています。そして、広告は無意識に時代の価値観を作っているものですよね。なので、日常で当たり前の光景を表現できているか、など世に出る前にいま一度表現を見直していただきたいです。
ミヤタ:LGBTQ+だけを認めてほしいということではなく、当たり前の日常を描いてほしいです。広告だったら紹介される商品が届けたい層に対して、リアリティがうまれているか、という発想を持ってほしいと思っています。
─続いて、参加者からの質問にも答えていただきました。
Q.LGBTQ+当事者俳優の起用が少ないことをどう感じていますか?
若林:起用の機会が大切だと思っています。例えば、スクールものだったらクラスで1人トランスジェンダーの役がいて、その役をトランスジェンダーの俳優が演じることや、4人シスジェンダーの男性役をオーディションで決める時に、3人男性のシスジェンダーで1人トランスジェンダーの男性を起用してみるなどでも良いと思います。すぐに主演ではなく、どこに起用の機会を設けるのかということを考えていただくと、解決の糸口が見えてくるのかなと思っています。
ミヤタ:まず今の日本の状況においては、当事者俳優が演じるということよりも誠意も持って制作される、様々な関係性が描かれている作品を常に世に出し続けていく事が優先なのではないか、と考えております。
まずは当事者俳優でなくとも、納得していただけるレベルでの作品制作に挑み、満足度や数字的な結果を出していく事により、当事者の役者をはじめ、撮影スタッフや制作スタッフにも様々な才能を持つ人材が集まってきやすい状況となって、エンタメ業界全体の活性に繋がるのではないか、と考えております。
そして「当事者が演じなければ」、となるとカミングアウトをする事が前提になるという問題も発生するのでここは慎重に議論を重ねていく議題であると思っております。
Q.多様性がある世の中で、広告起用人数は限られています。その中で何を優先するべきでしょうか?
若林:雇用の機会の創出が大切だと思っています。その中で、まずは広告の中で何を優先したいかを考えるのが大切だと感じています。
例えば、広告の中で1人しか起用出来ない場合、シーズンを通して6本広告を作ろう、となった際に、1本はトランスジェンダーの俳優を起用してみよう、などあると思います。
また、ひげそりの広告の際に必要な要素は、「男」か「トランスジェンダー」かということではなく、「ひげがある」か、「ひげがない」かですよね。その際にトランスジェンダーの俳優を起用していただいた場合でも、トランスジェンダーということを打ち出す必要はないと思っています。
大切なことは雇用の機会を作ることです。
そして、「男のみだしなみ」という表現を、「かっこよくなりたいあなたへ」というものに変えるだけで、性別問わず、届けることができると思います。
Q 日常で当たり前の光景をうつす広告―社会が変わっていることをきちんと認識して、それを自分達の仕事に落とし込む(広告制作とか)ことが大事だなと感じます。
ミヤタ:とても頼もしい意見をありがとうございます。
「日常で当たり前の光景をうつす広告」は良くも悪くも「日常での『当たり前』を作れてしまう事」であるとも思っています。
私は、セクシュアリティ以外の部分とは関係ないシチュエーションなどでたくさんの広告に励まされたり、助けられたり、楽しませてもらったりしてきました。
それは数十年前にも及ぶ幼少期の記憶としても、はっきりと残っています。
今を生きる人には勿論ですが、これから様々な経験を重ねていく子供たちの未来の為にも、広告やエンタメで「日常の素晴らしい当たり前」を作り、そして常に更新していけたらいいな、と思っています。
ミヤタさん、若林さん、ご参加いただいた皆さま、ありがとうございました。
●ミヤタ廉(みやた・れん)氏プロフィール●
ヘアメイクアップアーティスト(宮田靖士名義)として活動する中で、映画『エゴイスト』(本年2月公開)にて、ヘアメイクデザインと並行し、脚本からセクシュアルマイノリティーに関するセリフや所作、キャスティングから宣伝までを当事者からの目線で監修担当。以後、日本初のLGBTQ+インクルーシブ・ディレクターという肩書きで、未解禁作品を含め数多くの作品に携わっている。
●若林佑真(わかばやし・ゆうま)氏プロフィール●
1991年、兵庫県生まれ。同志社大学神学部在籍中から演技などのレッスンを受け、卒業を機に上京。俳優やラジオパーソナリティーの他、東京レインボープライド2016、2017ではステージパフォーマーとして出演し、脚本・プロデュースも担当。