広告×LGBTQ+の未来を考える 第1回
「メディアにおけるLGBTQ+表象の問題点・課題」レポート
JAAAは6月のプライド月間にあわせ、DE&I委員会主催のもと「広告×LGBTQ+の未来を考える」と題し、会員社を対象に全4回の勉強会を企画いたしました。第1回は6月6日Zoomにて、(一社)fair代表理事の松岡宗嗣さんを講師に迎え「メディアにおけるLGBTQ+表象の問題点・課題」をテーマに実施いたしました。本稿ではその模様をレポートいたします。
DE&I委員会委員で、ADKホールディングスの松岡弘樹さんの司会で始まった本勉強会。開始にあたり、JAAA専務理事の橋爪より今回の取組み趣旨について話がありました。JAAAの2023年度アクションプランの一つ「多様な人材の発掘・育成・成長のための広告業としての環境整備」について触れ、広告業界が持続的に発展を続けるためには、多様な人材によるイノベーションとクリエイティビティの発揮が欠かせないとした上で、広告および広告業界の価値と魅力をあらためて高めていくためにはDE&Iはじめ多様な価値観をあたかも空気のように自然で当然であることと思えるような環境整備が不可欠と述べ、「広告会社が集まり共に広告・広告業界を考え育てるために生まれたJAAAという団体だからこそ出来る活動という点も意識し、この勉強会を機に業界の多様性の広がりに向けた土壌を作っていきたい」と語りました。
つづいて主催する「DE&I委員会」について、委員である電通グループの半澤絵里奈さんより説明がありました。昨年8月に発足した当委員会は4社8名の委員で構成され、委員長は電通グループ dentsu Japan Chief Sustainability Officerの北風祐子さんが務めています。半澤さんは、委員会立ち上げのきっかけについて「弊社も含め皆さまの会社は今、DEIに関してどのように向き合っていくか、二つの視点で検討・活動されていることと思います。一つはインターナル/自社の取組みをどうするか、もう一つはエクスターナル/クライアントやパートナーと共にこのテーマにどう向き合っていくかということです。様々な広告会社さんがある中で、このテーマに対して予算や人材といったリソースをかけるのは難しい会社さんもあるということが分かり、それならば一社一社ではなく広告業界みんなで力を合わせてこのテーマに取り組むことが大切と感じ、JAAAに相談し設置されることとなりました」と振り返りました。一年目の活動として会員社対象にDE&I実態調査を実施し、二年目となる今年は皆さまと一緒に具体的な学びの機会を持ちたいと述べ、「今後皆さまから意見やアイデアをいただきながらこの活動を盛り上げていきたい」と、多くの方の参画を歓迎しました。
二人の話の後、メインスピーカーである松岡さんの講演に移りました。
松岡さんの講演より、主要部分を中心にダイジェストでお届けいたします。
(以下、松岡さん)
本日のテーマにならい、LGBTQ+をめぐるメディアコンテンツの表象をめぐって、最近問題視されているポイントをいくつかお話したいと思います。
昨今、性的マイノリティへの注目が高まり、伴ってメディアコンテンツも増えてきている一方で、表象における問題とはどのようなものがあるのでしょうか。
①映画PRにおける「漂白」
性的マイノリティを描く海外作品が日本で上映される際、たとえばオリジナルのポスターでは同性愛に関する表現が描かれているのに、日本版ポスターではその表現を削除する(漂白する)ということが度々起きて、批判の対象になっています。また、LGBTQ+を描く作品の宣伝で「これはLGTBQ+の話ではなく~」といった表現が用いられることがあります。「○○ではなく□□」という構文は、ある種後者をより良く見せるために前者を否定するものだと思うのですが、なぜ敢えて「LGBTQ+ではなく」と否定する必要があるのか。ここで考えられるのは、ポスターも宣伝表現も、LGBTQ+と銘打つことでこの作品が見られなくなってしまうのではないかという懸念があるからではないかと思います。しかし、LGBTQ+を描く作品と捉えられたくないという姿勢を取ってしまうこと自体に、偏見があるのではないか、または偏見を助長してしまうのではないでしょうか。
ここで挙げた問題点は、宣伝における表現など、テクニカルな面で解決できることがたくさんあると考えていますので、皆さまの中で表象の議論の際注意してもらえるといいなと思います。
②当事者が演じるべき?
このテーマは海外でも議論が盛んに起きています。“演じる”わけなので「誰が何を演じても良い」という原則が、議論している皆さんの共通の考えだと私は理解しています。ただ、業界や社会構造として捉えた時に、そこには「機会の不平等」と「表象の不均衡」があると考えています。性的マイノリティの当事者が性のあり方をオープンにした上で、物事の意思決定に関わるということが難しい、そして演者としても採用されない状況は、就労における「機会の不平等」があると思います。そして就労の機会不平等が起こると「表象の不均衡」につながります。たとえばリアルな同性愛者像ではなく、異性愛者の人が想像する同性愛者の表現が用いられる、トランスジェンダー女性の役をシスジェンダー男性、つまり多数派の男性が演じると、トランスジェンダーを身近に感じていない人は、あくまでも「女装」と捉えてしまうなど、ステレオタイプが助長される可能性があります。
ただこれらは一朝一夕には変えられない課題で、業界全体で構造的な変化を起こしていく必要があると考えています。
③プライド月間:レインボーウォッシング
プライド月間に合わせて取り組みを行う企業が増えていますが、企業が取り組む際に指摘される問題点をここで整理したいと思います。
プライド月間の主眼はLGBTQ+の権利の啓発ですが、LGBTQ+の存在、尊厳、平等といった点には触れずに、「みんな違ってみんないい」「誰もがお互いの個性を尊重」と過度に普遍化するということが起きています。プライド月間がどういう経緯・目的で出来たものなのかという基本情報を十分に把握し、その上で企業としてどういうメッセージを出したいかという点に立ち返る必要があると思います。「レインボーウォッシング」という言葉があるように、たとえば企業が自社のロゴをレインボーにするなどしたとしても、実際にはほとんど何もしていない・自社のアピールのため・売り上げのためなのではないかといった批判をされることがあります。なお「ピンクウォッシング」という言葉はほぼ同じ意味で使われることもありますが、厳密には自社にとって不都合なことをLGBTQ+フレンドリーを取り繕うことで覆い隠す状態のことを言います。
こうした批判されうる問題点がある中で、どういう点に注意をすれば良いのか、ポイントをまとめたのがこちらです。
性的マイノリティは12カ月の内1カ月だけ生きているわけではないので、取り組む際にぜひ前向きに―目的に適っているか、実態が伴っているか、課題解決するための取り組みと理解しているか―進めていただけたら嬉しいです。
この後松岡さんは、昨今広がる「ジェンダーレス」という表現について、「人によって表しているイメージが異なり、適切な使い方ではないケースが多い。この言葉の主眼はジェンダーを無くすことではなく、男らしさ、女らしさの押し付けなど、ジェンダー規範を無くすという意味で使われているのではないか。」との見解を示されました。
また、性的マイノリティがドラマや漫画に出てくると「ポリコレに配慮して、ムダにLGBTを出した」といった声が上がることに対し「多数派の人々は『ムダに異性愛者ばかり』とは言われない。本来人口の1割程度いるはずの性的マイノリティがほとんど出てこないのはむしろ社会の実態を表していない」と指摘しました。
最後に、国内外で反LGBTQ+のバックラッシュ、特にトランスジェンダーに対する攻撃が激化し、トランスジェンダーを起用した広告が批判される事例などを挙げながら、「『差別』『人権』の問題は根深い問題で解決は並大抵のことではない。しかし、企業としてどういう社会を目指しどのようなメッセージを発信するのかということに立ち返り、社会に良いインパクトをもたらす存在であってほしい」と締めくくりました。
質疑応答では、お薦めのLGBTQ+作品、LGBTQ+フレンドリーを上手に打ち出している企業の紹介、LGBTQ+イシューについて社内で共感を得ながら進めるためのアドバイスなど、多くの質問が寄せられました。
松岡さん、ご参加いただきました皆さま、ありがとうございました。
●松岡宗嗣さんプロフィール●
愛知県名古屋市生まれ。政策や法制度を中心とした性的マイノリティに関する情報を発信する一般社団法人fair代表理事。ゲイであることをオープンにしながら、Yahoo!ニュースや現代ビジネス、HuffPost、GQ等で多様なジェンダー・セクシュアリティに関する記事を執筆。教育機関や企業、自治体等での研修・講演実績多数。著書に『あいつゲイだって – アウティングはなぜ問題なのか?』(柏書房)、共著『LGBTとハラスメント』(集英社新書)など。NHK「あさイチ」、TBS「news23」、日本テレビ「news zero」、TBSラジオ「荻上チキ・Session」などメディア出演多数。
最近ではメディアコンテンツの監修も行っており、同性愛を主要なテーマとして扱う映画の宣伝監修、制作関係者への勉強会、取材の立ち合いなど対外発信の部分を中心に協力。LGBT法連合会が発行している「LGBTQ報道ガイドライン」の策定にも携わる。